グリップ部への配慮
金属トップとは反対に、形状、質感、共に最大の配慮がなされて然るべきは、キャスティングの生命線ともいうべきグリツプ部分である。 そこでグリップ先端部、中間部、後端部と、そのどこを握っても違和感がないように全体の太さを均一とし、長時間にわたって竿を振り続けても、手の平や手指にダメージを受けないよう、コルクグリップの表面をごく滑らかに仕上げてもらった。
グラスの含有率を増して得た粘り腰
「柔軟で芯が強い」「張りのある粘り腰」といった、竹の性質に近い調子を実現したのは、ガラス繊維5%、カーボン繊維95%という素材特性による。ガラス繊維の含有率を高めれば粘性が増すという点ついては、いまさら説明するまでもなく、すでに周知の事実として広く知られるところであろう。
堅牢度を高めた肉厚と重心点の関係
堅牢度を高めるために竿の肉厚をかなり厚く仕上げてもらった。 だからその分だけとうぜん重量は増える。それを補い、持ち重り感なく仕上げるキーポイントは、適切な重心点である。それぞれの限界点を見極め、堅牢かつ持ち重り感なく仕上げる。 開発過程において最も腐心した部分である。その甲斐あって、堅牢かつ軽快な竿に仕上がった。
カラーは目にやさしい艶消しの2色
「人の目を惹くよりも、目にやさしい塗装を」それが3バージョンの外見コンセプトである。 テンカラのキャスティングは顔の近く、すなわち目に近いところで頻繁に竿を振って行う。したがって、光の反射を抑制する艶消し塗装が望ましい。反射による眩しいチラチラや、その残像は思 いのほか煩わしいものだ。 そんなわけで、上流、本流向きの2バージョンをワインカラー艶消しに、源流向きバージョンはブラック艶消しと、表面色(反射色)を抑えた仕上がりにしてもらった。
こなれた価格設定
いくら出来のいい竿であっも、値段が高くなっては意味がない。 それを以前にも増して痛切に感じたのは、数年前に東京の立川で開かれた「テンカラ・フォーラム」の会場であった。 参加者の中に、中学校へ通っているとおぼしき若者の姿があって、事務局の話では、かなり遠くから一人で参加してくれたらしい。 そんな彼がイベント終了後に、私の著書や、共に講師を務めた方々の著書を大切そうに抱え、恥ずかしそうにサインを求めてきたのだ。はにかんだその童顔を見上げながら「彼のような若者でも、無理をせずに買える出来のいい竿がもっとあったら」という思いが再三にわたって胸にこみあげてきた。 だから3バージョンに対しての私の願いは、1万5千円を越えない販売価格であった。 そのあたりの申し入れは、テスターという領分を越えて、むしろ僭越というものであったろう。にもかかわらず、理解を示してくれたスズミ開発陣は、「なんとか検討してみましょう」といって、納得できる販売価格を設定してくれたのである。
テスターの理想と企業努力が実を結んだ傑作
そしてスタートから丸一年を経た初春。 「天空テンカラ渓愚Special35PRO(本流向き)」、「同32PRO(上流向き)」、「同32(源流向き)」という白文字のロゴが入った3本の完成品を遂に手にすることができた。 納得できる品質に仕上がるまで、テスターに妥協を求めることなく、何度も試作を繰り返してくれた開発陣の熱意。それを容認したメーカーの企業努力。数々の無理を受け入れてくれた工場スタッフ。とことんテストを行って良否の判断を下すテスターという存在。四者が全面的に協力し合って始めて完成をみた、あくまでも実用をむねとする完成度の高い3バージョン。そう自負できるテンカラ竿を、ようやく私は手にすることができたのである。 長年にわたって抱き続けてきたテンカラ竿の理想像が、初めて現実となった記念すべき瞬間であった。
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