テンカラとフライ/その新たな兆し


 二月二日の寒狭から始まった今年のテンカラシーズンも、9月末の多摩川をもって閉幕となりました。 その間8カ月にわたって各地の川を釣り歩いてきたわけですが、終ってみますと短いようでもあり長いようでもありで、今の気分はこもごもです。

 ともあれ禁漁。納竿御同役各位におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。シーズンを振り返ってニンマリしたり、はたまた舌打ちしたりと、味わった喜怒哀楽を反芻しつつも早々と来期の釣りへ思いを馳せておられる方が、すでにおられるのではないでしょうか。かく言う私もそんな一人なのですが、シーズン全体を振り返ってみますと、今期は釣果以外の実りが多分にあって、いま頻りにそれを思い返していたところなのです。

 そんな実りをもたらしてくれたのは、例年にも増して付き合いのあった多くのフライマンたちでした。仕事の関係もあってのことですが、今年は目立って彼らとの釣行が多く、そうでなかった日のほうが稀と言っていいほど頻繁かつ稠密な付き合いに終始したシーズンだったのです。したがって冬期から初秋までと、全期にわたってフライを見続けてきたわけで、季節や条件に応じた毛バリの選定やテクニックなど、テンカラに関係深い方法論のあれこれを、期せずして再認することができました。


●力点の相違

 それでまたまた考えさせられことは、テンカラとフライは極めて酷似した釣りでありながらやはりどこかが違うという、つまり似て非なる部分であって、ややもすると気にせずに見過ごしてしまいがちな相違点でした。

 そのあたりをじっくり煮詰めていきますと、「現時点」ではと敢えて断り書きを付させてもらいますが、魚を誘い出す際の力点の違いがはっきり見えてきます。  すなわちテンカラにおけるその際の力点とは「毛バリを沈めて動きを与え、もって魚の食い気を誘発する」ことであり、フライにおけるそれは「多種多様な毛バリをケースバイケースで用いて食いを誘う」ということにあります。

 テンカラ毛バリは抽象的かつ簡素で良しとするのに対し、フライの毛バリの多くは具象的で精緻を良しとするのもそれで頷けます。

片や毛バリを操ることに力を注ぎ、片や精緻な毛バリを作ること力を注ぐ。力点の相違を、そこにはっきり認めることができます。

 「現時点では」と、断り書きを付してテンカラとフライの相違点を述べたわけですが、では「将来は」と断り書きを付した場合はどうなのでしょうか。

 私が書きたかった今回のテーマも実はそれであって、テンカラとフライは今後どう変わっていくのか。つまり双方の釣りの将来的な予測ということになります。  テンカラとフライは将来もっと釣れるようになる、と敢えて結論を先に言わせてもらいますが、そんな予測をこれからしてみようと思います。

 その前にお断わりしておきますが、この予測は単なる想像や当てずっぽうから出たものではなく、テンカラとフライ、双方の長所とその根拠を長期間にわたって探り、これはと思うものを試した末にはじめて得られた感触です。そして今シーズン。フライマンと頻繁に交わした付き合いを奇貨として、ことあるごとにその点を確かめてみたのですが、やはり結果に誤りはなく、以前にも増して肌理細かな感触を得ることができました。「今期は釣果以外の実りが多分にあって」と冒頭で記したのは、そんな理由あってのことなのです。


●テンカラとフライの時流

 テンカラ師一人一人、フライマン一人一人には、それぞれ釣り方の好みやこだわりというものがあります。スタイルの違い、という言い方をよくされますが、要はテンカラ師とフライマンが百人寄れば百人百様の考え方があるというわけです。

 頑として一種類の毛バリしか使わないテンカラ師もいれば、絶対にルースニングをやらないフライマンもいるといった具合で、信じるところを貫いたり、単なるこだわりであったりと、その理由は様々ですが、多分に個人的な嗜好によってそれは左右されます。

 ですが、好むと好まざるにかかわらず、以前は存在しなかったテンカラ毛バリや、過去には無かったルースニングというフライの釣り方は現にあるわけで、テクニックの一つとして、すでにそれらは定着しています。

 前置きばかり長くて恐縮ですが、これから私がしようとしている予測もそれであって、各人の好みやこだわりとは大幅に次元を異にします。別な言い方をしますと、実行するしないは勝手次第ということです。

 極端な話が、かく言う私でさえ、これから述べようとする将来的なテンカラやフライの方法が今より釣れるからといって、常に用いるかどうかはわかりません。しかしその方法を用いることで今よりもっと釣れるとなれば、やはりそれは一つのテクニックとしていつか浸透し、やがては定着をみるはずで、釣れないより釣れたほうがいいとする「釣りの大命題」があるかぎり、それが自然な見方であろうと思われます。


●テンカラとフライはもっと釣れる

 さて、もっと釣れるようになる将来のテンカラとフライ。そうなる理由を先に言いますと、それはテンカラとフライ、双方のテクニックの融合にあります。

 さきに述べた力点の相違を思い出していただきたいのですが、テンカラのそれは「毛バリを沈め、動きを与えて」魚を誘い出し、フライのそれは「多種多様な毛バリをケースバイケースで用いて」魚を誘い出します。

 では、その二つを融合させたらどうでしょうか。つまり「多種多様な毛バリをケースバイケースで用い、それを沈め、動きを与えて」魚を誘い出そうというもので、効果的な二つの方法を一つに纏めてより効果的な結果を得ようという目論みです。すなわち相乗効果を狙って行なう方法です。

 私は以前からテンカラでこの方法を適宜用いて効果をあげていたのですが、今期は友人のフライマンにもシーズン目一杯かけてこの方法を試してもらいました。その結果は良好で、すこぶる有効という実績が得られたのです。

 「フライのウエットフィッシングの代表的なものは、大河でフライを扇形に流しながら釣っていくダウンクロス・スイング・アプローチ、それとライズ狙いのウエットがありますが、竿の操作は比較的単純で、テンカラのように浅い所から深い所まであらゆる層を流したり、様々なアクションを加えるということをしません。今まではそういうもんだと思っていたんですが、テンカラの細かいテクニックを見て試してみたらどうもそれだけじゃありませんね。もっと色々な方法を取り入れて然るべきだとつくづく感じました」
 今シーズン一緒に釣ったフイマンたちに限らず、これまでテンカラをじっくり見てもらった多数のフライマンたちからも、そんな意見が異口同音にもたらされています。

 テンカラとフライ、双方のテクニックの融合……。コロンブスの卵にたとえられそうなほど単純な方法ですが、効果のほどは絶大ということです。


●その兆し

 毛バリで渓魚を釣るという点も同じなら、ラインをキャストして釣るという点についても同じ。それほどテンカラとフライは酷似した釣りなのですから、お互いの長所を取り入れて活用すれば、今よりもっと釣れるようになるのは当然すぎるほどの道理であって、そうでない理屈はどこを捜しても見当りません。それはお互いの幅を広げるものでありこそすれ、それぞれのスピリッツを少しも損なうものではありません。どこまでいってもテンカラはテンカラであり、フライはフライであって、何物にも変化することなど金輪際あり得ないのですから。

 「テンカラ師がフライの長所を見極め、フライマンがテンカラの長所を見極めてそれぞれの幅を大きく広げる。したがってテンカラとフライは今よりもっと釣れるようになる」

 これが私の言わんとするテンカラとフライ双方に関する将来的な予測ですが、皆さんはどうお考えでしょうか。

 テンカラ師やフライマンを常に見かけ、お互いの釣りをじっくり見る機会も多くなった昨今、すでにその兆しが見えつつあると私には思えるのですが。


渓愚の技法
●なぜ魚は毛バリに食いつくのか
●テンカラの流儀
●テンカラとフライその新たな兆し
●毛バリを使いこなす