まずは今年も寒狭から

 寒狭川中部漁場。愛知県の南設楽郡(みなみしたらぐん)を東流する この川は、同郡鳳来町にある旧跡、「長篠城址」のあたりで本流の豊 川と合流を果たす。説明するまでもないと思うが、武田勝頼率いる2万 の将兵、かたや徳川家康と織田信長が率いる7万2千、その両軍が激 突し、ひいては武田家滅亡の因ともなった、あの長篠である。
 その長篠から、川沿いの道路を8kmばかり遡った所にある釣り場が 寒狭川中部漁場で、ちなみに、さらに遡って低い峠を越えると、小堀遠 州の茶器で知られる信楽(しがらき)町に出る。

 そんな寒狭川の解禁日は2月の第1日曜日。解禁日のほとんどが3月 以降に集中している関東に較べ、1カ月以上もその時期が早い。岐阜の 長良川と同じく、いち早くアマゴ釣りを楽しむことができる川なのだ。
 昨秋の禁漁以降、腕を撫し、満を持してきた釣り師にとっては、待って ましたと出かけて行きたくなる嬉しい釣り場なのである。
 で、私が出かけたのは解禁日の翌日、正確にいうと2月8日の月曜日 ということになるが、それよりも1日早く駈けつけ、初日から竿を振ってい たビョーキ、じゃなくて友人たちの話によると、今年の寒狭も好調らしい。

 今年の寒狭川中部漁場は、テンカラ、フライ、ルアー専用エリアがさら に延長され、疑似餌派釣り師たちの竿にも一層リキが入ることになった のだが、さて、その新設エリアはどうだろうかと、行きつけの喫茶店「珈 亭樹」の下流部を覗いてみれば、いるいる。型のいいアマゴがうようよ 泳いでいる。明らかに30cm3mm、つまり尺を越す大型もいくつか確認 できる……どころじゃないよ、おい!かなりいるよ尺ものが!失礼、つ い冷静さを欠いてしまいました。
 そんなわけで、とにかくタックルをセットアップして釣ってみることに。

 幅の広い浅瀬から、急速度で走り込んでくる流れが徐々に速度を 落とし、次いで緩慢な動きを見せる縦長のプール。ほとんどが水中で の行動だが、至るところで餌を漁るアマゴの姿が見てとれる。羽化直 前の水棲昆虫、おそらくユスリカの蛹が大量に流下しているからだろう。 きわめて蚊に近似した極小の羽虫が、ときおり水面に漂うことでもそう と判断できる。水温が低く、カゲロウ類やトビケラ類など、他の多くの水 棲昆虫の羽化条件が整わないこの時期、その強靭さゆえに、平然と集 団羽化を繰り返すユスリカ類は、アマゴにしてみれば実に捕食しやすい 一級品の餌料であるに違いない。
 これは余談だが、蚊に近似していても、ユスリカには吸血などという 下品で嫌らしい習性がないので、痒みに弱い私としては大いに助かる。

 プール中央部の左岸(上流から見て左側の岸)にそそくさと降りた私 は、小高い岩の上にスタンスを定め、足元の水中で盛んに餌を漁るア マゴに対してまず狙いをつけた。コロンと肥え、見るからに引きが強そ うな25cmクラスで、最初のターゲットとしては申しぶんない。
 本来なら、水中を流れているユスリカの蛹を模した極小の毛バリで攻 めていくケースなのだろうが、端からそれではあまりにも細かく、あまり にも当たり前すぎて芸が無い気がする。だからその手は後の手段とし て、まずはテンカラの伝統に従い、存在感たっぷりの逆さ毛バリを使 ってみることにした。

 「逆さ花笠」と名づけた逆さタイプ、すなわちハックルをアイ側に寝かせ て巻いた12番サイズの毛バリを、狙ったアマゴの上手へ落として中層 まで沈め、流れなりに送り込んで様子を見る。だが、あまり反応がない。 そこで2投目は小刻みに竿先を上下させて毛バリを動かし、ハックルを 開閉させながら流してみた。このアクションが効いたようで、今度は一気 にアマゴが突進してきた。よし!と声を掛けながら合わせを行うと、ぴた りのタイミングでフッキング。グーンという引きの強さが堪らない。
 ひとしきり続いた遣り取りの後、リリースネットで掬ったアマゴは、目算 どおり25cm強の幅広堅太りで、放流ものにしては尾ビレがきれいに整 った別嬪(べっぴん)であった。ことによると去年からの居残りなのかも しれない。
 もちろんアマゴは怒っているだろうから、勝手ながらファイトを称え合っ たつもりでリリースさせてもらった。だがやっぱりアマゴは怒っていたらし く、一閃のキラメキだけを残して矢のように深みへ。

 その後、棒夫(ぼうぞれ)堰堤上のプ−ル、広見ヤナ下、源氏橋下と 移動しながら釣り歩き、どこもほどほどに釣れて1日目を終えた。
 用いた毛バリは同じく「逆さ花笠」12番。ユスリカが水面全体に銀粉 を撒いたように羽化し、それを盛んに捕食するアマゴのライズ(跳ね) を見てからは、ユスリカの成虫を模した毛バリ、いわゆるミッジアダル トの24番を水面で用いた。


インフォメーション

時期:
コンデションョン良好な時期は解禁から3月末あたりまで
アクセス:
東名・豊川I・C〜R151新城市〜R257(I・Cから約1時間)

問合せ:
寒狭川中部漁協 05363(6)0551

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