イワナという魚と、そのフィールド

・イワナ・岩魚・嘉魚
 イワナを漢字で書くと「岩魚」。釣り師のみならず、それは一般的 にもよく知られた成語であって、岩の下に潜む習性を持つ魚を、そ のままの文字を使って表した、誰にでもそうと分かる端的な表意文 字である。
 ところで、イワナを示す成語はそれのみでなく、他にもう一つある のをご存知だろうか。もちろん地方名や専門用語ではなくての話な のだが。もったいぶらずにさっさといってしまうと、「嘉魚」という成語 が実はそれで、読みは「かぎょ」。嘉の文字には美味という語意があ るので、すなわち美味い魚ということになる。美味い料理のことを嘉 肴(かこう)というが、それと同じ意味合の成語である。
 ちなみに「魚」と「肴」さらには「菜」の三文字は、古くはみな「な」と 読ませ、すべて食材を意味する同源の漢字とされている。だから岩 魚をイワナと読むわけなのだが、それと同じように、魚を「な」と発音 する他の例としては、「勇魚」と書いて「いさな」と読ませる鯨の古称 がある。

・イワナの親類
 知ったかぶりついでといってはなんだが、この際だからイワナにつ いての薀蓄(うんちく)をもう少し傾けて、その素性や戸籍にまつわる 点について触れてみたい。で、少々堅い方向に進んで生物学的な分 類というお話になる。
 「サケ目→サケ科→サケ亜科→イワナ属→イワナ亜属→イワナ」
 以上の矢印の流れは、イワナの分類方法の一つで、その素性や 戸籍を生物学的に指し示している。これを文章的に翻訳すると「イ ワナはサケの仲間で、似たような魚が多数存在しますよ」ということ になる。具体的にはどんな似た魚がいるかというと、日本に棲息す るイワナ属にはアメマスとオショロコマ(北海道や北米に棲息)が、 外国にはブルックトラウト、レークトラウトなどなど多数。
 それが何を意味するかというと、カナダのNeaveという水産学者の 説によれば、まずは200万年以上前に、ニシンの祖先型からサケ マス類が分化。後に、現在の水位より200m近い海水面の上昇(海 進)があって、暖流が北極海あたりまで達する。それに伴ってサケマ ス類の大移動があり、さらに氷期と温暖期が繰り返し到来し、ひいて は、海水面の後退(海退)と上昇という現象がその都度繰り返され、 加えて陸地の隆起や沈下といった地質上の変動などもあって、その 結果サケマス類の一部が限られた地域に隔離されてしまう。
 隔離されたサケマス類は、他とは異る地域的な個体変異や進化を 生じ、イワナ属という、それまでとは違った属や亜属が派生したので はないかというのである。
 したがって多種類のサケ、ヤマメ、アマゴ、ニジマスなどなど、サケマス類の魚 は、すべてイワナと近い親類関係にある魚なのである。

参考文献:
久保達郎(1980)淡水魚6-1(財)淡水魚保護協会

・陸封
 ちなみに、イワナの学名を  といって、本 来アメマスと同種なので、サケと同じように海に降って大きく育ち、再び 川に遡って産卵していたはずなのだが、やはりなんらかの地質学的理 由によって降海できなくなってしまい、やむなく川に封ぜられてしまった 隔離種であって、そういうタイプの魚を陸封型と呼ぶ。したがって、アメ マスにもイワナと同じ、というより実際にはアメマスのほうが先なのだろ うが、やはり  の学名が付されている。

・天然のイワナ
 さて、前置が長くなってしまったが、(おいおい前置だったのかよ)冷 水域の川や湖沼での釣りを経験したことがある人たちを除き、イワナ という魚の実物を見たことがある人は、そう多くはあるまい。ことに、 それが天然ものともなればなおさらのことで、どう望んだとしても、それ を目にすることは不可能に近いだろう。イワナが幻の魚と言われる理 由も一重にそのあたりにある。鮮魚店に天然イワシは並んでいても、 天然イワナが並ぶことは間違ってもないわけで、こればっかりは、然る べきフィールドへ出掛け、自分の手で釣らないかぎり、決して目にする ことはできない。
 

・そのフィールド
 では、然るべきフィールドとは具体的にどんな場所なのか、ということ だが、おそらく釣り場事情に不安内な人なら真っ先にこう考えるのでは あるまいか。
 「きっとそれは何時間も歩かなくてはならない山奥なんだろうな」と。
 ところがさにあらずなのだ。たしかに山奥で、しかもそこが人跡稀な場 所なら天然のイワナに出会える確率も高い。だがそんなに山奥でなくて も、そして車から降りてすぐ竿を出せるような気楽に行けるフィールドで あっても、天然のイワナが釣れる河川が結構あるのだ。


 長野、新潟、富山、山形、秋田、岩手など、各県各地の誰でも行ける そうしたフィールドを実際に釣ってレポートとしてまとめ、随時このページ で紹介していきたいと思う。とくに、これから釣りをはじめてみようという 方たちのためにも。

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