小菅川禁漁後・現場からの報告


嬉しくなるほど夥しい数のイワナを、そして多数の産卵床が散在するいくつもの瀬を、山梨県小菅川に設けられたキャッチ&リリース(C&R)区間の流れで目にしました。禁漁からすでに2ヵ月ちかく、谷間を吹き抜けていく木枯らしに促されるように枝を離れた無数の落葉が、まるで絨毯のごとく谷間を敷き詰めていた寒い午後のことでした。

・川の復活を願う協力の輪
 以前の号でも記しましたが、
「昔のように、いつ行っても魚が泳ぐ川を復活させたい」
 村人たちのそんな願いを土台に据えて、小菅川の下流域にC&R区間の設定を提案させてもらったのが99年1月中旬。それを真摯に受けとめてくれた小菅村漁協、観光協会、養殖組合、役場関係者、そして釣り人の有志が一丸となって大車輪で事を運んだ結果、わずか2ヵ月後の解禁初日から、奥多摩湖バックウオーターを起点とする約2kmのC&R区間が誕生しました。漁協が設定した本格的規模のC&R区間としては、山形県の寒河江川に次いで2番目のスタートということになります。

 そうしたこともあって、テレビ、新聞、釣り雑誌、インターネットなど、いくつもの媒体によって、その報道が相次いでなされ、そのおかげもあって、解禁当初から漁期最終日の9月末日まで、例年をはるかに越える釣り人が小菅川に足を運ぶようになりました。

 近隣の地域だけでなく、たとえば中部地方などからも、すでにお馴染みの石垣尚男さんのテンカラグループ、タイトループの石川智啓さんのFFグループ、矢野眞弘さんのルアーグループが多数駆け付けてくれましたし、本コーナーの挿し絵担当の川北卓史画伯も多忙な中を縫って釣りにきてくれました。

 もちろん地元に近い関東甲信地方からは、日券の販売数やリピーターが多い年券保有者数から推して、少なく見積もっても延べ1万人を越える釣り人が訪れています。  着目すべきは、遠近に関わらず頻繁に訪れたそんな釣り人たちと、それを迎える村人との間に密度の高い交流が生まれたことで、それが次第に膨らみ、やがては大きな輪へと成長していった予想外の出来事でした。

 たとえば石川さんと矢野さんが先導するFF&ルアーグループですが、愛知や静岡からの遠路をものともせず、月2回のペースで行なわれた成魚放流と河川清掃にも、必ず誰かが参加するという精励ぶりでしたし、釣り人の立場で森作りを推進する 「瀬音の森」というボランティア団体の場合には、解禁前の事前放流に始まって、禁漁後に漁協が開催した反省会にまで及ぶ全ての行事に必ず多数が参加という村人に引けをとらない皆勤ぶりで、その労に報いたいとする村人からの山林提供の申し出を受けて、「瀬音の森・小菅」という支部まで設けるに至りました。

 私が所属するC・R・Oアングラーズというグループの協力体勢もなかなか活発で、放流量増加の提案を行なったり、役場から諮問された村営管理釣り場の改善に携わるなど、釣り人の意見を反映するための活動を色々と行なってきました。また、各グループメンバーおよび頻繁に訪れる釣り人あわせて10名ほどが、漁協から依頼されて監視員のボランティアを務めています。

 村外から訪れるそういった釣り人たちや団体、小菅村各種団体関係者、ならびに多くの村人が一体となって発展を遂げた交流の輪は、顔を合わせる度に、話をする度に絆の強度や信頼の度を増し、C&R区間をより良い釣り場とするには今後どうすべきかを話し合う中心的な存在として機能するようになりました。この輪は常時開放されていて、日を追うごとにその人数が増え、中身の濃い話し合いが禁漁後の今も絶えず持たれて実に活発です。

「釣り人と漁協の双方が満足できる提案を何回となく行なってきましたが、いつまで経っても暖簾(のれん)に腕押し状態で、実りのある反応があまり返ってきません」  C&R区間の提案を永らく続けている各地からそんな話が頻繁に伝わってきます。 「外部から来る釣り人などは何度訪れようとも一過性のよそ者にすぎない」  そう考えるのが常識となっている極めて保守的な漁協や地域が多い現状にあって、小菅村における交流の輪は、実のところ特筆すべき例外なのかもしれません。



・C&R区間設定の効果
 ところで、禁漁後の話し合いに村を訪れる度に気になった点は、魚がどうなっているかというその後の状況で、つまり「川を再生させたい」という目的を土台に据えてスタートしたC&R区間の効果の有無についてでした。

「あれだけ放流した魚が、はたしてどれくらい残っているかですが」
「例の常習者たちに随分と持ち帰られてしまったからねえ」
 禁漁後すぐに行なわれた山梨県水産センターの調査結果は「釣りの対象となる魚が残っていた」という程度で、あまり景気のいい話とは思えなかったのがその際の印象でした。

 ところがです。その後になりますが、10月に2回そして11月に3回と、合計5回にわたってC&R区間内を見て歩いたところ、日を追うごとに魚の数が増してゆき、ヤマメに次いでイワナの産卵行動も目に見えて活発化していったではありませんか。持ち帰り自由の区間と見較べますと、比較にならないほどそれは盛大であって、誰もが瞠目すべき状況でした。

「深みや大石に潜んでいた魚が産卵のために姿を現してきたこともあるでしょうが、いったんは奥多摩湖へ下った魚の溯上がかなりあったと見ていいと思います。それにしても凄い量ですね。尺近い良型がほとんどですが、40B前後の大型もかなり見えますし、今までではとても考えられなかった光景です」

 瀬ごとに確認できる夥しい数のイワナを前に、すでにその大半が事を終えたヤマメの産卵状況も思い起こしながら、子供の頃から小菅川に親しんできた役場の加藤源久さんの目も開きっぱなしでした。

 そうした状況が、村人や釣り人たちが願う川の復活という部分へダイレクトに結びついてくれるかどうか軽々に判断は下せませんが、産卵できるヤマメやイワナが多数残ったという点だけは間違いのないところで、それだけでもC&R区間を設けた意義が充分にあったことだけは間違いありません。


・来シーズンへ向けて
 来シーズンからの存続もすでに決定済みとなった小菅川のC&R区間ですが、お伝えしたいニュースはそれだけではありません。

 その一つは区間の延長で、東部キャンプ場下から余沢橋間の流程が、これまで2kmだったC&R区間に新たに加えられます。
 気になる解禁日ですが、来シーズンは3月4日の第1土曜日が初日となりますので、その開始がこれまでより半月ばかり早まります。
 ただし入漁料は変わらずで、年券4千円、日券8百円、そして女性の場合は両券ともその半額と、以前と同じ金額に据え置かれます。

 C&R区間、持ち帰り自由区間とも全川にわたる月2回の成魚放流はこれまでどおりですが、持ち帰り自由区間における放流量がかなり増量されます。
 どれも釣り人にとっては歓迎すべきニュースであって、来シーズンの小菅川も今年以上に面白い釣りが楽しめそうです。

     



本文初出誌・『ハローフィッシング』(週刊テレビ)

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