元気になった小菅川


 今年の小菅川は見るからに体力を回復し、いつになく元気いっぱいの様子で3月4日の解禁日を迎えました。昨年から実施されたキャッチ&リリース(C&R)区間に多くの魚が残って大きく育ち、来た人ことごとくの竿を思うさま引き絞ってくれたのです。
 たとえばスポニチAPCの若林茂さんですが、彼が私の目前で釣り上げたイワナなどは、体長が47pもある見事なもので、リリースに立ち会った多くの人たちから「それ天然魚ですか」と、異口同音に驚きの声が発せられたほど尾鰭バリバリの見事なピンシャンでした。
 おそらく他の人も…そう思った私は、急遽インタビュアーとなってC&R区間内で竿を振る人たちの感想を訊ねて回ることにしました。

・まずは左隣で竿を振る石川智啓さん。

 定期放流や河川清掃のたびに、多くのボランティアと共に愛知県から訪れてくれる
小菅川にとっては得難い常連のお一人です。

「あー石川さん、いかがですか今年の小菅川は」

「なんですか渓愚さん、急に釣りをやめたと思ったら気持ちの悪い声を出して」

「たった今、私は釣り人ではなくインタビュアーとなりました。ですから、ちゃんと応えてください」

「……」

「石川さんったら」

「見れば分かるでしょ。今バンバン釣れて忙しんだから話し掛けないでくださいよおっとまた」

「でもインタビューですから。小菅川も、かなり元気になったと思うんですけど、いかがですか」

「見れば分かるでしょ、そんなこと。あーもう釣りすぎて腕が痛い」

 石川さんは、そう言いつつ、24番のミッジでヒットさせた良型のヤマメを、
私には見せなかったニコニコ顔でリリースしていました。
 どうも、これ以上は聞き出せそうもないので、すぐ近くでルアー竿を振っている矢野徹さんの所へ回ることに。
 矢野さんもまた、多くの有志を募って静岡県から駆け付けてくれる常連
で、監視員のボランティアも努めています。

「あー矢野さん矢野さん。いかがですか今日の調子は」

「どこから声を出してるんですか渓愚さん」

「インタビューですから、ちゃんと応えてくださいよ、もう」

「もう、って言われても、まだ何もしゃべっていませんけど」

「ああ、そうでした。で?」

「どこの川も雨が少なくて、それで心配してたんですが、残ってますね昨年
の魚が沢山。先週ぼくたちが放流した魚もちゃんと居着いているようです
から心配いりませんね、この分なら」

「はい、どうも」

「あれ、もう終わりですか」

「もっとしゃべりたいですか」

「いえ別に……」

「あっ、そこにいるのはハロー誌のHappy Fishingでお馴染みの鈴木千
代さんじゃないですか。奇遇ですね」

「わざとらしいですよ渓愚さん。ついさっき話したばかりなのに」

「しーっ、矢野さんのインタビューはもう終わったですからビークワイエット」

「ということで、千代さんどうぞ」

「矢野さんに教えてもらって、フライのルースニングとルアーでヤマメとレイ
ンボーをいっぱい釣りました。嬉しいですー」

「完璧に満足ですか」

「でも、まだイワナ釣ってないし。いま釣れそうだったのに渓愚さんが話し掛けるんだもん」

 はいはい、お邪魔さまでしたね。 

「おおマエストロ飯盛さん、来てたんですか。どうですか調子は」

「なに言ってんですか、僕の車に乗ってきたくせに」

「だから、インタビューだっちゅうの。演出ってものがあるでしょうが、多少なりとも」

「……。あっバラした、もう!」

「ドライで20本近く釣ったんですから、1本ぐらいどうってことないでしょうに」

「それ知ってんなら改めて調子は、なんて聞くことないでしょ。あっとまたバラした。
 気が散るなーもう、あっちで釣ろっと」

 どういうわけかマエストロ飯盛さんが去っていきましたので、次はと。

「おー、レネ中山さん。いかがですか、今年の小菅川は」

「もう昼飯の時間ですか」

「そうじゃなくて、インタビューですインタビュー」

「へぇー」

「へぇーじゃなくて、小菅川のコンデションについて聞かせてくださいよ、魚影の濃さとか」

「じゃあ飯にしましょうか、だいぶ釣ったし」

「わざとですか、それ」

「飯盛さーん、飯だって渓愚さんがー」

 レネ中山さんからは、さきほどドライの20番で釣った尺オーバーの、やはり
去年からの居残りと思われるピンシャンイワナの感想を聞きたかっのですが、
どうも話が通じないようなので次へ。

「おお、地元の舩木学さん。どうですか今年のコンデションは」

「あによまた急に。コーヒーなら言われたように濃いやつ入れてあるからそこに」

「そうじゃなくて、インタビューなんだけど、川についての」

「さっきも言ったじゃんかよ、去年の産卵期にごっそり残っていたイワナがあま
り散ってないから、今年の魚影は凄いって」

「ヤマメの型もいいようですが」

「それもさっき話したじゃんかよ、先週放流したヤマメのほとんどが25p前後の良型だって。
 おーい中山さーん、どうにかしてくれよ渓愚さんをよー。上流へ監視に行かなきゃならないんだからよー」

 えーと、ともかくインタビューを続けることにします。

「おっと役場の加藤さん、どうですか調子は」

 役場に勤務する加藤源久さんは、小菅村漁協の理事も兼ねていますし、ベテランのテンカラ師だけに、
 釣りに関しては話せるお役人なのです。

「今しがた、漁協の、仕事から、解放されて、やっと、竿を、よいしょっ、ワーオ!
 来た来たヤマメだ。型がいいと引くねヤマメは」

「ワーオじゃなくて、今後ですね」

「ワーオ!ほらほらまたヤマメ」 

 テンカラのビョーキモードにどっぷりの加藤さんは放っておくことにして。

「あっと、古菅組合長お疲れさまです。どうですか今シーズンの川のコンデションは」

「お陰さまでC&R区間もキープ可の区間もかなり好調ですよう。特にC&R区間は
去年の解禁日の平均よりか釣れているようで、かなり好評です。やっぱり去年
の魚がたくさん残っているからじゃあないですかね。毎月の定期放流や寄付放流
もありますから、シーズンを通じて充分に楽しんでもらえるじゃあないですかね、
この分なら」

 聞きましたか皆さん。さすがに古菅一芳さんは漁協組合長、さらには村会議員
だけあって、応答の姿勢が実に正しく、しかも頼もしい限りではありませんか。
これぞインタビュアーに対する小笠原流というものです。
 というわけで、聞いて歩いた感触も、見て回った雰囲気も、そして実際に釣って 感じた手応えも、全てがこれまでになく良好であって、C&R区間設置から丸1年 ではありますが、小菅川は目に見えて元気を回復してきた模様です。 「今シーズンは去年にも増して楽しめそう」  3月4日の小菅川解禁日は、そんなこんなで実に素敵なハレの日でした。



初出H12・4月『ハローフィッシング』(週刊テレビ)

back