12月 ”箱入り卵”十万粒への願い


 十二月十日の日曜日、小菅川源流域の流れに、イワナの発眼卵が納まった三十個の箱(ヴィバートボックス)が、ひっそりと埋設された。

 この作業は、「昔のように大きな魚が泳ぐ豊かな川を復活させよう」と、同川を管理している小菅村漁協が毎年行なっているもので、 生態系の保全を目的とした放流事業のひとつ。合わせて十万粒におよぶ発眼卵の孵化と、その後の生残率に関係者の期待が寄せられている。

 養殖技術の進歩にともなって、イワナの放流も各地の河川で広く行なわれるようになった。それには、稚魚放流、成魚放流、そして今回の小菅川のように、ヴィバートボックスに卵を敷き詰めて水中に設置する埋設放流と、三通 りの方法がある。

 箱の中で発眼卵が孵化して仔魚となり、卵黄を吸収しながら育ち、やがて箱の隙間から泳ぎ出してくる。

 以上がヴィバートボックスの仕組なのだが、食物が豊富にあって、在来魚の数が少なければその方法は効果 的とされ、選定作業や消毒等の手順をきちんと踏まえて行なえば、ほとんどの卵が孵化し、その後の生残率も良好という。

 その意味では、「幸か不幸か」という但し書き付きではあるけれど、今回の放流地点ほど最適な環境はあるまい。

 すなわち、源流域なので河川工事や道路工事などの影響がなく、自然環境が保たれている。したがって魚の食物となる水棲昆虫や陸棲昆虫などが豊富。これは幸の部分。

 東京をはじめとする大都市が近いせいで多くの釣り人が訪れる。したがって、ほとんど釣り切られてしまて在来魚の生息数が極端に少ない。本来これは不幸の部分。

「持ち帰る魚はほどほどに、 という釣り人ばかりなので残る魚が多く、もう卵放流は不適切」  そんな日が来れば、ヴィバートボックスの役目も終了するのだが。


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