5 月(1)  ワサビ田の水イワナに”快”

 小菅川の支流、山沢川にある仄暗い峡谷を抜けると、ぽっかりと空が開いた明るいワサビ田に出る。  そのワサビ田一面に、白くかれんな十字花が今季も咲き揃った。栽培者は漁協理事の舩木学さん。生物に害をおよぼしたくないからと、あくまで無農薬に撤したクリーンなワサビ田だ。

 さて、その根元を洗う目当ての清流を覗き込むと、いるいる。数匹の小イワナが、慌てて石の陰に姿をくらました。

 警戒心の強さはイワナの常だが、山沢川は全面禁漁区。実のところは警戒無用の安全地帯なのだ。  ワサビ田なんかにイワナが?と思われるかもしれないが、その一帯は水深が浅く産卵場に適している。したがって、よく小イワナの姿を見かける場所なのだ。

 ワサビ田から一キロほど下ると、夏蕎麦(そば)の種まきを終えたばかりの畑地が両岸に見えてくる。そのあたりは、穏やかな小川といった趣なのだが、どうして、二十五センチ前後に育った立派なイワナの姿が目視できる。地元の人たちが、大切に見守ってきた禁漁区ならではの光景である。

 人の目に触れにくい冷水域に生息するため、自然交配のイワナは「幻の魚」などと呼ばれる。たしかに釣り人が多くなった昨今、山沢川のような禁漁区か、よほど踏破困難な険しい谷でしか多くの増殖は期待できない。

 だが、魚影の多寡はまちまちとはいえ、小菅川の本支流には、自然交配のイワナが広く分布している。周囲の山々が、東京都の水道水源林として機能していることでも分かるように、水質が良好で餌となる昆虫類が豊富という点もさることながら、山沢川とともに、やはり以前から禁漁区になっている玉川、宮川といった二つの支流が、たしかな涵養源(かんようげん)としての役割を、期待どおり果たしてきたからに違いない。環境保全を考える上での好例、といえるかもしれない。

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