7 月  魚止めの滝とヤマメの命


  主に源流域での話だが、落差があり過ぎて魚が溯上できない。そんな滝を称して「魚止めの滝」という。

 小菅川のそれは標高千メートル地点にある雄滝。長大な岩に隔てられた二本の太い水柱が、左右同形を成して見ごたえがある。

 それを飽かずに眺めていた先日のことだが、左側の水柱を登ろうとして、果 敢に跳躍を繰り返すヤマメの姿があった。滝壷の深みから飛び出しては落下し、また飛び出しては落下し、という行動がしばらく続いた。来るべき秋の産卵期に向けて、少しでもそれに適した場所へ赴こうとして努力する本能的な溯河行動である。

 地質年代の最新生、すなわち氷期と間氷期が万年単位で入れ替わったという氷河時代……。

 その氷期、氷に埋め尽くされた北方の淡水から追われたヤマメの祖先たちは、安住の地を求めて海に降り、当時は冷水域だった熱帯地方まで進出を果 たしたという。しかし、淡水に住んでいた頃の記憶が忘れられず、産卵期だけは川へ溯上するという特異な習性を獲得する。いわゆる母川回帰である。その習性は、今も降海型のヤマメ、つまりサクラマス(ホンマス)によって営々と受け継がれている。

 やがて氷河時代は終わり、地球的規模の温暖化が進行する。

 ヤマメの祖先たちにとって、水温が上昇してきた南方の海は住みづらい場所となってしまい、次第に北方の海へと後退していく。だが、いくつかとり残されたグループがあって、そこでの唯一の冷水域、つまり川の源流へ源流へと溯上し、自らをそこへ封じ込めることによって命脈を保った。

 その子孫こそ、関東以西から台湾にかけて分布している陸封型のヤマメなのだ。

 溯上不可能な雄滝で目にするヤマメの跳躍には、そんな悠久の記憶が秘められている


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