むかしばなし
天狗と独楽(こま)

- 昔、信州の話である。
村の子供たちがみんなでコマ遊びをしていると、隣村の三吉が泣きながら走ってきた。
「村に天狗が来た」と言う。
子供たちは村人たちが天狗にさらわれでもしたのかと驚いたが、よく話を聞くと天狗にコマを奪われただけだった。天狗に「勝ったらこの金のコマをやろう」と、回るコマ同士をぶつける勝負を挑まれて負けたらしかった。。
「なんじゃ!くだらん。」
「勝負は勝負だろう、負けたのなら仕方ないじゃないか。」子供たちはあきれて口々につぶやいた。
三吉は再び声をあげて泣き出した。
年長の大助が三吉の様子を見て尋ねた、「そんなに大事なコマだったのか?」
「うん」三吉はしゃくりあげた。「死んだじいちゃんにもらったコマだ。」
子供たちは顔を見合わせ、足元から自分たちのコマを拾った。
三吉と共に子供たちが隣村へ駆けつけると、天狗は神社の境内でひとりコマ遊びに興じていた。
「おや?」天狗が言った。「また子供たちが来たな。さあ、この金のコマが欲しければ勝負せい!」
「そんなもんいらん、わしらは三吉のコマをかけて勝負じゃ!」大助が言った。
「ほう、おかしな子供たちだな。まあよい、はやくヒモを巻け。」
「わしは最後じゃ。」そう言って大助は地面に腰を下ろした。
天狗の金のコマは、まるで板のように薄っぺらい、軽くて弱そうなコマだった。
三吉がつられて勝負したのも無理はなかった。
これで勝負をしようというのだから、何か秘密があるに違いない。
大助はみんなの試合中に、それを見極めてやろうと思ったのだ。
勝負の展開はやはり妙なものだった。
村の子供たちが、地面に穴をあけるほど勢いよくコマを回しているのに、天狗の金のコマは木の葉のようにヒラヒラと身をかわし、全く他とぶつからない。まるで生き物のように逃げていく。
紐で叩いてコマを導いても、天狗のコマは生き物のように逃げていく。
それで相手のコマが弱るのを待ち、軽く触れては倒してしまうのだった。
1人、2人、3人と、仲間たちは次々に負け、コマを奪われていった。
大助はなりゆきをじっと見守っていた。
4人目の子供が汗だくになり、土煙をあげながら必死にコマを叩いていた。
天狗のコマは相変わらず涼しい顔をして逃げ回る。
その時大助がおもむろに言った。
「天狗さん、あんたのコマはインチキじゃ!」
「さて、何もしとらんじゃろう?わしは…。」
「でもいんちきじゃ!」
「で、どうするんじゃ?あきらめるのか。」
「いや、あきらめん。」
大助は自分のコマにヒモを巻きながら言った。「わしもコマを回すぞ。」
「2人がかりか?ずるいやつじゃのう…」
「あんたはもっとずるい!」大助は大きく振りかぶり、コマをありったけの力で投げ付けた。
力みすぎて大助のコマはあさっての方向に飛んでいった。
すると、何ということだろう、大助のコマが、ごん!と空中で何かに当たって跳ね返ったのだ。
そこには「隠れみの」を背負い、手に「羽根うちわ」を握ったカラス天狗がのびていた。カラス天狗が、手下として協力していたのだ。
大助は土煙の具合から、カラス天狗がコマを風で操っていたのを見破ったのだった。
「やっつけろ!」大助の声に子供たちは一斉に飛びかかり、天狗を袋叩きにした。
その後子供たちは、畑仕事や遊覧飛行と、散々天狗をこきつかってから、ようやく帰してやったということである。
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